iDeCoとNISA、どちらがいいかは年収と退職金で変わる

2026年に入ってから「iDeCoは改悪された」「NISAだけでいい」といった投稿がSNSを賑わせています。手数料の値上げ、10年ルールの導入、退職所得控除の縮小議論——確かに気になるニュースが続いています。

この記事でわかること:

  • iDeCoとNISAどちらが有利かを決める「課税所得360万円」の目安
  • 退職金額によって損益分岐点がどう変わるか
  • 2026年の10年ルール変更・2027年の手数料改定が実際に与える影響
  • 年収・退職金別の具体的な判断フレームワーク

SNSの煽りに流されず、自分の条件に当てはめて考えてみましょう。


結論:課税所得360万円以上ならiDeCo優位

まず覚えておきたいシンプルな目安がこれです。

課税所得 所得税+住民税率 目安の年収 判断
360万円以上 約30% 約716万円以上 iDeCo有利(退職金の大きさ問わず)
195〜360万円未満 約20% 約450〜716万円 退職金次第(2,000万円超ならNISAも要検討)
195万円未満 約15% 約450万円未満 退職金次第(1,000万円超ならNISA優先も)

「課税所得」とは、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を引いた金額です。扶養控除や生命保険控除がある方は、その分だけ課税所得が下がります。年収716万円でも、家族構成によっては課税所得が360万円を下回ることもあります。


なぜ課税所得で決まるのか:「税の先送り」の仕組み

iDeCoの本質は税金の先送りです。

NISAは手取り(税引後)から入金します。年収716万円・税率30%の方が月2.3万円を積み立てようとすると、税金で0.69万円引かれた残りの約1.61万円しかNISAに入りません。

iDeCoは所得控除があるため、税引前の月2.3万円まるまま運用できます。ただし、受取時に退職所得として課税されます。

ポイントは「入口の税率」と「出口の税率」の差です。

  • 入口(積立時):所得税+住民税 最大55%が非課税
  • 出口(受取時):退職所得控除後の1/2のみ課税 → 実質最大約27.5%

課税所得が高いほど入口の税率が高く、出口の優遇税率との差が大きくなります。この差がiDeCoの有利さになります。


具体的な比較:年収716万円・年率7%・20年運用

動画でよく使われる標準的な前提で比較します。

条件 iDeCo 新NISA
積立額(月次) 2.3万円(税引前) 1.61万円(税引後30%)
年率 7%(固定) 7%(固定)
運用期間 20年 20年
運用益の課税 非課税(受取時まで繰り延べ) 非課税
20年後の運用額 約1,198万円 約839万円

iDeCoの1,198万円から退職所得控除(勤続20年×40万円 = 800万円)を引き、残りの1/2に税金がかかります。退職金が別途あり控除枠がない最悪パターン(税率55%)でも、税引後は約869万円。NISAの839万円を上回ります。

退職金が少なければ少ないほど、iDeCoと合算しても控除枠が余り、税負担はさらに下がります。

Money Portalのシミュレーター(SLIM_US・月2.3万円・20年)では、確率的な変動も加味すると以下の結果になります。

期間 元本 悲観(P10) 中央値(P50) 楽観(P90)
10年 276万円 285万円 455万円 744万円
15年 414万円 492万円 906万円 1,666万円
20年 552万円 746万円 1,564万円 3,302万円

実効年利11.22%(SLIM_USの円ベース実績CAGR)での試算です。将来のリターンを保証するものではありませんが、長期運用の威力が数字で確認できます。


年収・退職金別の損益分岐(目安)

月2.3万円・年率7%・20年運用の前提で、退職金の大きさ別にiDeCoとNISAのどちらが有利かをまとめます。

入口税率(所得税+住民税) 退職金0円 退職金1,000万円 退職金2,000万円 退職金3,000万円以上
15%(年収450万円未満目安) iDeCo iDeCo 要検討 NISA寄り
20%(年収450〜716万円目安) iDeCo iDeCo 要検討 要検討
30%以上(年収716万円以上目安) iDeCo iDeCo iDeCo iDeCo

課税所得30%以上のゾーンでは、退職金がいくら高くても試算上はiDeCoが有利です。

ただし、iDeCoの運用成績は確定していません。特に税率15〜20%のゾーンで退職金が多い方は、楽観シナリオと悲観シナリオの両方を考えて、掛金を減らしてNISA併用するのも一つの手です。


2027年の変化①:掛金上限の引き上げ

2027年から、会社員(企業年金なし)のiDeCoの掛金上限が現行の月2.3万円から月6.2万円に引き上げられます。

課税所得30%以上の方にとっては、非課税で運用できる金額が大幅に増えるため、iDeCoのメリットがさらに拡大します。一方、税率15〜20%ゾーンで退職金が多い方は、増額分をすべてiDeCoに回すか慎重に判断が必要です。


2027年の変化②:手数料改定の影響

国民年金基金連合会の手数料が2027年から改定されます。

改定前 改定後(2027年〜)
拠出するたびに105円 毎月定額120円

月ごとの積立なら差額は15円/月。20年間続けると3,600円の増加です。年1回まとめて拠出する場合は、年105円→年1,440円(月120円×12)となり20年で2万6,700円増えますが、投資元本の規模から見れば誤差の範囲です。

SNSで「改悪」と騒がれましたが、このコストが判断を覆すほどの影響を与えることはありません。


2026年1月〜の10年ルール

iDeCoと退職金の受取タイミングに関して、2026年1月から大きなルール変更がありました。

これまでは、iDeCoを先に受け取って5年空ければ、退職金とそれぞれ退職所得控除を満額使えました。これが2026年から10年に延長されました。

例えば60歳でiDeCo一時金を受け取り、65歳で退職した場合、5年しか空いていないため退職所得控除の枠を合算して計算されます。10年空けようとすると、60歳iDeCo受取なら70歳まで退職できないことになります。

この変更は「5年で分けて控除を倍取り」していた方には大きなダメージでした。ただし、そのような計画をしていなかった方への影響は限定的です。


今後のリスク:どこまで警戒すべきか

退職所得控除の縮小議論

「転職が当たり前の時代に長期雇用者を優遇するのは不公平」として、加入20年超の控除額を70万円/年から40万円/年に下げる議論がありました。「サラリーマン増税」と批判を受け現在も先送り中です。

退職所得の1/2課税の縮小

2012年の改正で勤続5年以下の役員、2021年の改正で勤続5年以下の一般社員(控除後300万円超の部分)には1/2課税が使えなくなりました。ただしこれは短期雇用者を使った節税スキームを封じるためのもので、一般の長期加入者への拡大議論は現在ありません。全面廃止となれば大多数のサラリーマンへの増税となるため、現実的には政治的ハードルが非常に高いと言えます。


まとめ

  • 課税所得360万円(年収約716万円)以上なら、退職金の大きさにかかわらずiDeCo優位
  • iDeCoの本質は「税の先送り」。入口の税率が高いほど、出口の退職所得優遇税率との差が効く
  • 2027年の手数料改定(20年で約3,600円増)は判断を変えるほどの影響なし
  • 2026年の10年ルールは「5年で控除を分けて取る」戦略に影響するが、一般的な活用には関係薄い
  • 将来の制度変更リスクは現実的な範囲で把握した上で、SNSの煽りに惑わされず冷静に判断を

自分の課税所得と退職金の見込みを確認してから、iDeCoとNISAの配分を考えましょう。シミュレーターで積立プランを試してみてください → シミュレーターを使う