給料は上がっているのに、なぜ生活が楽にならないのか

「給料が上がったはずなのに、なんか生活が楽になっていない」——そう感じているなら、その感覚は正しいです。

生活が苦しくなる理由は2つあります。物価が上がっていることと、税金が増えていることです。物価の話はよく耳にしますが、見落とされがちなのが税金の話です。インフレが進む中で政府が適切に対応しないと、気づかないうちに税負担が増えていく「ステルス増税」が進みます。

この記事では、ステルス増税のしくみを具体的な数字で解説したうえで、NISAによる資産形成でどう対抗できるかをシミュレーションデータとともに紹介します。

この記事でわかること:

  • ステルス増税(ブラケット・クリープ)がなぜ起きるのか
  • エコノミストが推計する年間約2兆円の隠れ増税の実態
  • 月3万円のNISA積立で20年後にどれだけの資産が形成できるか

ステルス増税(ブラケット・クリープ)とは何か

日本の所得税は、所得が高いほど税率が上がる累進課税です。主な区分は以下のとおりです。

課税所得 税率
195万円まで 5%
195万円〜330万円 10%
330万円〜695万円 20%
695万円〜900万円 23%

問題は、インフレが進んでも政府がこの区分を変えないことです。

1974年の大卒初任給は約8万円でした。2024年は約25万円です。50年で3倍になりました。名目上の給料は増えましたが、物価も同じように上がっているため、実質的な生活水準はそれほど変わっていません。

ところが、税率の区分はほとんど変わっていません。給料が増えるほど、より高い税率の区分に押し込まれ、税負担が増えていきます。これを「ブラケット・クリープ」または「ステルス増税」と呼びます。


名目賃金と実質賃金——何が違うのか

わかりやすく説明します。

給料が100円から102円に上がりました。同時にコンビニのおにぎりが100円から102円に上がりました。この場合、名目上の給料は増えていますが、買えるものの量は変わっていません。実質賃金はゼロです。

次に、給料が100円から102円に上がりましたが、おにぎりが100円から103円に上がったとします。名目上の給料は増えているのに、生活はじわじわ苦しくなります。これが実質賃金の低下です。

この「名目は上がったが実質は上がっていない」状態でも、税率区分は名目賃金で決まります。結果として、実質的な生活は変わっていないのに、税金だけが増えていくというねじれが生じます。


約2兆円の隠れ増税——数字で見る実態

エコノミストの試算によると、政府が以下の調整を行っていないことにより、総額約2兆円の隠れ増税が発生しているとされています。

  • 所得税の税率区分をインフレに合わせて見直していない
  • 給与所得控除をインフレに連動させていない
  • 基礎控除をインフレに連動させていない

一方、アメリカやカナダはインフレ率に応じて毎年税率区分を自動的に調整しています。日本でも同様の仕組みがあれば、手取りはもう少し増えているはずです。

具体的なイメージを示します。年収800万円の人が給与改善で880万円に上がったとします。インフレも同じ程度進んでいるので、実質的な生活水準はほぼ変わりません。ところが調整がなければ、この80万円の増加分には以前より高い税率がかかる可能性があります。これが「気づかないうちに進む増税」です。


インフレで普通の人が不利になる構造

インフレが進むと、資産を持っている人と持っていない人の格差は広がります。

資産を持っている人(不動産・株式)は、保有資産の価値が物価と一緒に上昇します。その一方で、税対策をしていれば税負担の増加を一定程度抑えることができます。

給料だけで生活している人は二重のダメージを受けます。物価の上昇が給料の伸びを上回って実質賃金が下がり、そのうえ名目給料の増加によって税率区分が上がるリスクがあります。

この構造に対抗するための最も現実的な手段が、NISAを活用した資産形成です。


NISAで逆転する——月3万円積立のシミュレーション

ステルス増税の影響を受けながらも、NISAで積立投資を続けた場合どうなるかを確認します。

前提条件

項目 設定値
月次積立額 3万円
銘柄 eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
実効年利(CAGR) 11.22%
ボラティリティ 18.27%
積立期間 20年
初期投資 0円

シミュレーション結果

Money Portalのシミュレーターで1,000通りの将来シナリオを計算した結果です。

経過年数 元本 悲観(P10) 中央値(P50) 楽観(P90)
5年 180万円 167万円 225万円 317万円
10年 360万円 363万円 570万円 954万円
20年 720万円 994万円 2,069万円 4,364万円

20年後の中央値は約2,069万円です。元本720万円が約2.9倍になる計算です。

ステルス増税によって奪われる実質的な負担を補うどころか、長期の複利効果によって大きく上回る資産が形成できます。


なぜNISAが有効なのか

NISAの最大の利点は、運用益が非課税になることです。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかります。しかしNISAを使えば、この税金がゼロになります。

ステルス増税が給与所得に対して自動的に税負担を増やしていく一方で、NISAは投資収益にかかるはずの税金を完全に排除します。インフレで実質賃金が目減りする中、NISA+インデックス投資の組み合わせはその流れに抗う有効な手段です。

月3万円という積立額は、多くの給与所得者にとって現実的な範囲です。毎月の生活費を少し見直すことで、20年後に中央値で約2,069万円という資産形成が期待できます。


まとめ

  • 給料が上がっても生活が苦しくなる理由のひとつは、所得税の税率区分がインフレに連動していないステルス増税にある
  • エコノミスト推計では、この隠れ増税は年間約2兆円に上る
  • インフレが進むほど資産を持たない人は不利になり、資産を持つ人との格差は広がりやすい
  • NISAでeMAXIS Slim 米国株式を月3万円積立すると、20年後の中央値は約2,069万円(元本720万円比約2.9倍)
  • ステルス増税という「奪われる側」の構造を理解し、NISAで「増やす側」に回ることが長期的な生活防衛になる

自分の積立条件でシミュレーションしてみてください → シミュレーターを使う