S&P500が「赤字企業OK」になるかもしれない
2026年4月末、インデックス業界に大きな波紋を広げるニュースが届きました。S&P500を管理するS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が、指数への組み入れ条件を緩和する提案についてパブリックコメント(意見募集)を行っていることが明らかになったのです。
焦点は「収益性要件の撤廃」です。これまでS&P500には「直近4四半期のGAAPベース純利益が累積でプラス、かつ直近1四半期もプラスであること」という条件がありました。この条件が、時価総額の大きな企業(メガキャップ)に限って免除される可能性があります。
パブリックコメントの締め切りは2026年5月28日、変更が採用された場合は2026年6月8日の市場開始前に実施される予定です。
この記事でわかること:
- S&P500の現行の組み入れ条件と、今回の変更提案の内容
- なぜSpaceXやOpenAIがきっかけになっているのか
- VOO・VTI・オルカン・eMAXIS Slimへの影響
- 日本の人気投資信託はすでに赤字企業を組み込んでいるか
S&P500の現行の「収益性の壁」とは
S&P500に採用されるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 時価総額 | 一定水準以上(目安180億ドル超) |
| 流動性 | 年間売買代金が一定以上 |
| 収益性(GAAP) | 直近1四半期の純利益がプラス、かつ直近4四半期の累積純利益がプラス |
| 上場期間 | 最低12ヶ月(現在)→ 変更案では6ヶ月 |
| 本拠地 | 米国法人であること |
なかでも「収益性条件」は参入障壁として機能してきました。テスラが実際にS&P500へ採用されたのは2020年12月──4四半期連続の黒字化を達成してからです。それ以前は時価総額が巨大でも、収益性が不十分として採用されませんでした。
なぜ今、ルールを変えようとしているのか
変更の背景には、巨大テック企業の上場ラッシュがあります。
- SpaceX:プライベート市場での評価額は最大2兆ドルに達するとも言われ、上場初日から米国最大級の時価総額になる可能性がある
- OpenAI:直近の資金調達ラウンドでの評価額は8,520億ドル
- Anthropic:9,000億ドル超の評価額が示されている
これらの企業が上場する場合、時価総額という意味では「S&P500入り」にふさわしい規模です。しかし、OpenAIやAnthropicはGAAP基準では赤字です。SpaceXも非上場ゆえ公開財務情報がなく、厳密な収益性の確認が難しい状況にあります。
既存のルールでは、これほど巨大な企業でも「赤字だから採用しない」という事態が起きかねません。S&Pダウ・ジョーンズ社はその矛盾を認識し、メガキャップに限って収益性要件を免除する案を検討しているわけです。
出典: S&P 500 considers fast-track entry rules as SpaceX, OpenAI and Anthropic eye IPOs - Investing Live / US News Money
ルール変更が採用された場合、何が変わるか
S&P500の性格が変わる可能性があります。これまでのS&P500は「収益性が確認された大企業」のカタログでした。それが「時価総額が巨大であれば赤字でも採用」になると、より成長期待型・ナラティブ主導型の銘柄が混入します。
ある市場分析では「S&P500がよりNASDAQ100に近い性格になる」と表現されています。NASDAQ100はもともと収益性の条件がなく、高成長テック企業中心の構成です。
投資家の視点では次のことに注意が必要です。
- 「S&P500に連動しているから分散が効いている」という前提が変わりうる
- ポートフォリオに占めるスペキュラティブ(投機的)な銘柄の比率が知らずに上昇するリスク
- 現在のShiller CAPEレシオが38〜40付近と高水準にある中での構造変化
出典: When "The Market" Changes: Technical Twist Substack
VOO・VTI・オルカンは赤字企業を含んでいるか?
ここが多くの日本人投資家にとって最も気になる点でしょう。結論を先に言うと、ファンドによって状況は大きく異なります。
VOO(バンガード S&P500 ETF)
VOOはS&P500に完全連動しています。現行ルールのもとでは、VOOの構成銘柄はすべてGAAP黒字企業です。S&P500のルールが変更された場合、VOOにも赤字企業が入ってくる可能性があります。
VTI(バンガード 米国株式市場 ETF)
VTIはCRSP米国全市場指数に連動し、米国上場株式約3,500銘柄を保有します。S&P500(約500銘柄)に加え、中小型株も幅広く含みます。
VTIの構成の約25%を占める小型株部分(ラッセル2000相当)では、約40%の企業が赤字とされています。つまりVTIはすでに相当数の赤字企業を組み込んでいます。時価総額加重のため、赤字小型株の影響は限定的ですが、「赤字企業ゼロ」ではありません。
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
S&P500に連動するため、現時点ではVOOと同様、収益性が確認された企業のみが対象です。ルール変更の影響を受けるのはVOOと同じタイミングになります。
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)=オルカン
オルカンが連動するMSCI ACWIは、収益性を組み入れ条件にしていません。約2,700銘柄を時価総額・流動性・投資可能性で選定しており、赤字企業も対象になります。先進国・新興国の幅広い銘柄を含むため、実際には一部の赤字企業がすでに組み込まれている可能性があります。
日本の人気投資信託とインデックスの「収益性条件」比較
| ファンド | 連動指数 | 収益性条件 | 赤字企業の組み入れ |
|---|---|---|---|
| eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | S&P500 | あり(GAAP黒字必須) | 現状なし |
| eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | MSCI ACWI | なし(時価総額・流動性) | あり得る |
| VOO | S&P500 | あり(GAAP黒字必須) | 現状なし |
| VTI | CRSP US Total Market | なし(総市場) | あり(小型株の約40%) |
| QQQ(NASDAQ100連動) | NASDAQ100 | なし(市場規模・流動性) | あり得る |
NASDAQ100(QQQが連動)には収益性の条件がもともとありません。テスラが2020年12月にS&P500入りするより前から、QQQの構成銘柄でした。高成長・赤字の企業を早期に組み入れてきた歴史があります。
投資家として何を考えるべきか
今回の提案が通れば、S&P500の性格が変わります。それは「良い・悪い」の問題ではなく、自分が何に投資しているかを理解することの重要性を改めて示しています。
特に注意したいのは次の点です。
- S&P500連動ファンドとNASDAQ100連動ファンドを両方持っている場合、改定後はさらに重複が増える可能性がある
- 「インデックス投資は安定している」という前提に過剰な信頼を置かず、指数の中身に時々目を向ける習慣をつける
- ルール変更は2026年6月が予定されているため、実際の影響は最短で2026年後半から現れる可能性がある
まとめ
- S&Pダウ・ジョーンズ社は2026年5月28日を締め切りに、S&P500の収益性要件の撤廃(メガキャップ限定)などをパブリックコメントで検討中
- 変更の背景はSpaceX・OpenAI・Anthropicなど、巨大だが赤字の企業が上場を控えていること
- VOOとeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は現状では赤字企業を含まないが、ルール変更後は影響を受ける
- VTIはすでに赤字企業(小型株の約40%)を組み込んでいる
- オルカン(MSCI ACWI連動)は収益性条件がなく、すでに赤字企業が含まれている可能性がある
- 「どの指数に連動しているか」によって、実際に保有する企業の収益性が大きく異なる
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