積立の情報はあっても、取り崩しの情報はほとんどない
NISAやiDeCoで資産を積み立てる方法については、数えきれないほどの情報がある。月いくら積み立てれば老後にいくらになるか、というシミュレーションも豊富だ。
一方で、積み立てた資産をどう取り崩すかについては、ほとんど語られていない。定率で取り崩すべきか、定額で取り崩すべきか。取り崩しを始めた直後に暴落が来てしまったらどうなるのか。Money Portalの試算で、この「出口」の部分を具体的な数字で確認してみる。
この記事でわかること:
- 定率取り崩し(4%ルール)と定額取り崩しの違いとそれぞれのリスク
- 取り崩し開始直後に暴落が来た場合、資産がどう変わるか
- 現金クッション(生活防衛資金)が資産寿命にどれだけ効くか
前提条件
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| 取り崩し開始時点の資産 | 5,000万円 |
| 定率取り崩し | 残高の4%(毎年見直し) |
| 定額取り崩し | 年200万円(月約16.7万円)固定 |
| 通常相場の想定リターン | 年+5%(単純化した固定リターン) |
| 暴落シナリオ | 1年目-30%、2年目-10%、3年目+8%、4年目以降+6% |
| 現金クッション | 400万円(年200万円×2年分)を投資額から切り離して現金保有 |
実際の相場は年によって上下するが、ここでは定率と定額の構造的な違いと、暴落のタイミングが資産寿命に与える影響を見るため、あえて単純化したリターンで比較している。
シミュレーション結果
通常相場(暴落なし)の場合
年+5%が続く相場では、定率・定額のどちらも30年間で資産が枯渇することはない。
| 経過年数 | 定率4%(残高) | 定額200万円(残高) |
|---|---|---|
| 1年目 | 5,040万円 | 5,040万円 |
| 10年目 | 5,415万円 | 5,503万円 |
| 20年目 | 5,864万円 | 6,323万円 |
| 30年目 | 6,350万円 | 7,658万円 |
面白いのは、相場が右肩上がりの間は定額取り崩しの方が最終的な残高が大きくなるという点だ。定率は残高が増えるほど取り崩し額も増えるが、定額は取り崩し額が変わらないため、その分多く資産が積み上がる。
取り崩し開始直後に暴落が来た場合
1年目に-30%、2年目に-10%という下落が続いた場合はどうなるか。
| 経過年数 | 定率4%(残高) | 定額200万円(残高) |
|---|---|---|
| 1年目 | 3,360万円 | 3,360万円 |
| 2年目 | 2,903万円 | 2,844万円 |
| 3年目 | 3,010万円 | 2,856万円 |
| 10年目 | 3,401万円 | 2,514万円 |
| 20年目 | 4,049万円 | 1,708万円 |
| 30年目 | 4,821万円 | 265万円 |
| 32年目 | 枯渇せず(試算続行中) | 0円(枯渇) |
定率取り崩しは残高が減れば取り崩し額も自動的に減るため(2年目の取り崩し額は134万円に減少)、資産が尽きることは構造上ない。一方、定額取り崩しは下落局面でも200万円を取り崩し続けるため資産の目減りが速く、このシナリオでは32年目に資産が枯渇する計算になった。
取り崩しを始めた直後に暴落が来るというタイミングの悪さが資産寿命を大きく縮める現象は、順序リスク(シーケンス・オブ・リターンズ・リスク)と呼ばれる。
現金クッションの効果
暴落が来た1〜2年目の取り崩し分(400万円)を、あらかじめ投資に回さず現金で確保しておいた場合はどうなるか。定額取り崩しで比較する。
| 経過年数 | クッションなし(残高) | クッションあり(残高) |
|---|---|---|
| 3年目 | 2,856万円 | 2,914万円 |
| 10年目 | 2,514万円 | 2,602万円 |
| 20年目 | 1,708万円 | 1,865万円 |
| 30年目 | 265万円 | 546万円 |
| 32年目 | 0円(枯渇) | 177万円 |
暴落中の2年間、資産を売らずに現金クッションから生活費をまかなうことで、下落した価格での売却を避けられる。その差は年を追うごとに広がり、32年目時点でクッションなしは資産が尽きているのに対し、クッションありはまだ177万円が残っている。
定率と定額、どちらを選ぶべきか
定率取り崩しは資産が構造的に尽きないという安心感がある一方、暴落年は取り崩し額そのものが減ってしまう。暴落直後の2年目には取り崩し額が134万円まで下がる計算で、生活費の変動をどこまで許容できるかがポイントになる。
定額取り崩しは毎年の生活費が一定で計画が立てやすい半面、暴落が続くと資産寿命を縮める順序リスクをまともに受ける。
現金クッションは、下落局面で資産を取り崩さずに済む時間を稼ぐための備えで、2〜3年分の生活費を現金で確保しておくのが一般的な目安とされる。今回の試算でも、暴落直後の2年間を現金でしのぐだけで、その後30年間の資産寿命に大きな差が出た。
取り崩しは暴落が来ないことを前提にできない以上、定率か定額かの二択で考えるより、定額に現金クッションを組み合わせる、暴落年だけ取り崩し額を抑えるなど、複数の対策を重ねる方が現実的だと言える。
まとめ
- 通常相場では定額取り崩しの方が最終残高が大きくなりやすいが、暴落が来ると資産寿命を縮めるリスクがある
- 定率取り崩しは資産が構造的に尽きないが、暴落年は取り崩し額(生活費)が減る
- 取り崩し開始直後の暴落は順序リスクとして資産寿命に大きく影響する
- 2年分の現金クッションがあるだけで、暴落直後の資産寿命が大きく変わる
自分の資産額・取り崩しペースで試算してみたい方は、Money Portalの取り崩しシミュレーターを使う。